~口の中の“小さな化石”が私たちに教えてくれること~
歯石とは何か?
歯石は、歯垢(プラーク)が固まって石のようになったものです。成分の多くはカルシウムやリン酸などのミネラルで、歯の表面に強固に付着します。実はこの歯石、ただの「汚れ」ではなく、口の健康・全身の病気・さらには人類の歴史までを映し出す“小さな化石”なのです 。
歯石と歯周病の関係
歯石そのものが歯ぐきを直接攻撃するわけではありません。ですが、プラーク(細菌の塊)を溜め込みやすくする性質があるため、歯周病の大きなリスク要因になります。
歯石がつくと、歯ブラシやフロスでは届かない場所に細菌が住みつき、炎症や歯ぐきの腫れ、やがて骨の破壊につながっていきます。歯周病専門医が徹底的に歯石を取り除く理由はここにあります 。
法医学での役割
驚くことに、歯石は個人の身元を特定するカギにもなります。
DNAは通常、歯の神経(歯髄)から採取されますが、保存状態が悪いと難しい場合もあります。そんなとき、歯石に含まれるDNAが代わりの情報源になるのです。さらに近年では、歯石から薬物の痕跡(ヘロイン・コカイン・アヘンなど)が検出された例もあり、死因の特定や生前の生活習慣を探る手がかりになっています 。
歯石が語る“古代の暮らし”
考古学の世界では、歯石はまさにタイムカプセル。
ネアンデルタール人の歯石からは、食べ物のデンプン粒や薬草の成分が発見されています。これは、彼らがただ肉を食べるだけでなく、植物を調理したり薬として利用していたことを示しています。また、中世ヨーロッパの修道女の歯石からは「ラピスラズリ」の微粒子が見つかり、写本制作に関わっていた可能性が浮かび上がりました 。
歯石が示す健康リスク
現代でも歯石は全身の病気と無縁ではありません。
- 歯周病と糖尿病の相互関係
- 心筋梗塞や脳梗塞のリスク上昇
- 慢性炎症による発がんリスク
こうした研究結果は、「歯石=単なる汚れ」では済まされないことを教えてくれます 。
まとめ
歯石は、
- 歯周病予防のために取り除くべきものであり、
- 法医学では個人の記録を残し、
- 考古学では古代人の暮らしを再現するカギになる。
つまり歯石は、私たちの健康から歴史までをつなぐ「口の中の小さな化石」なのです。
定期的な歯石除去は単なるクリーニングではなく、未来の健康を守る投資とも言えるでしょう。