いい歯医者を選ぶには

患者によって「良い歯科医師」の定義は異なります。たとえば、早く治療が終わることや費用が安いことを求める人もいれば、それぞれの患者が考える「良い」とは異なるものです。

また、歯に対する価値観や歯科医師に期待するものは人それぞれです。特に、地域医療においては歯科医師の数が限られているため、その地域独自の考え方や医療文化が「常識」として受け入れられることが多いのです。日本全体の傾向として、年を取れば歯を失うのは自然なことであり、高齢者が入れ歯を使うのが当たり前という認識がいまだに広く浸透しています。歯科医師もこの認識を前提に、歯科医療制度や保険制度の規則に従えば良いと考えることが一般的です。この考えは完全に誤りとは言えません。なぜなら、歯を失うことを容認する国民と、それを前提とした歯科医療制度が一致しているからです。これは1961年から続いている日本の歯科医療に対する一般的な感覚です。しかし、1970年代に始まった虫歯の増加から現在に至るまで、日本人の歯に対する価値観は依然として低いままです。それにもかかわらず、近年ではこれに異を唱える人々が増えています。マスメディアによる情報が広まったからと考えられます。

現代の情報社会では、歯科医療情報を隠すことはもはや不可能です。ただし、歯科医学の知識がなければ、情報を正確に理解することは難しく、誤った情報を鵜呑みにしてしまうケースもあります。インターネット上には有益な情報もありますが、マスメディアは情報を操作している場合が多いです。特に、テレビで紹介される歯科情報は古くて偏ったものが多く、実用性の低い情報が多いです。これは、視聴者に分かりやすく伝える必要があるためであり、スポンサーに影響を与える「食事」に関する言及を避ける傾向があるからです。さらに、医療制度を脅かすような内容は報道されることがなく、「予防」に関しても深く掘り下げられることはありません。歯周病の対応方法や歯根膜の機能、歯科治療のリスク、砂糖の危険性についての報道が不足しているため、多くの国民の歯に関する知識は昭和の時代からほとんど進歩していません。その結果、多くの患者は真の予防方法や歯科治療の選択基準を知らないまま、歯科医師の指示に従うことがほとんどです。しかし、その一方で、積極的に歯科医療情報を発信し、患者と対等な関係で診療を行おうとする歯科医師が増えています。

一般的な歯科医師の職業は、公務員に近い存在と言えるでしょう。国の規定に基づいた保険制度に従って仕事をすれば、一定の報酬が得られる仕組みになっており、個々の歯科医師が一人勝ちすることがないように医療費の分配率も調整されています。これが結果として、患者一人あたりの診療に使える点数に制限を設けることに繋がっています。これは医療制度を公平に保つための策ですが、同時に歯科医師の怠慢を許す構造を生んでいるとも言えます。これは社会主義国家で見られる現象と似た仕組みです。医療制度そのものを変えることは難しいかもしれませんが、自らの提供する医療を改革しようとする歯科医師は、高度な治療技術を学ぶ過程で保険制度だけでは不十分であることを認識するようになります。そのため、高額なセミナーに参加してでも学びたいという歯科医師が増えています。ただし、これには注意が必要です。多くのセミナーは技術的な内容が中心で、倫理や道徳、哲学、理念についてはあまり言及されません。勉強熱心な歯科医師なら誰もがこの道を通ります。

医療の進化とともに、歯科治療も飛躍的に進化しました。特にこの10年で大きく改善されました。インプラント治療を中心に、咬合治療、歯周外科治療、矯正治療への展開が広がり、これまでは一部の熱心な歯科医師が学んでいた技術が、より多くの歯科医師に学ばれるようになりました。インプラント治療を成功させるためには、歯科治療全般に精通している必要があり、対応範囲が広がります。歯科業界には、セミナーや勉強会を専門に行う歯科医師がいますが、その規模は年々拡大し、海外の歯科医師を招いたり、海外で学ぶ機会も増えています。また、医療メーカーも製品を販売するために専属の歯科医師と協力してセミナーを開催することが増えており、メーカー独自の認定証を発行するケースも増えました。本気で治療技術を習得したいと考える歯科医師もいれば、認定証を得るためだけに参加する歯科医師もいます。患者がこれを見分けるのは難しいですが、判断基準としては、歯科医師本人が患者に対して丁寧に対応しているかどうかを見ることが重要です。

優れた治療技術は、歯科医師の優れた患者対応がなければ、その効果を十分に発揮することができません。場合によっては、効果が半減するどころか、全く効果を得られないこともあります。高度な治療には患者の協力が不可欠だからです。歯を一部失う、または完全に失う原因の多くは患者自身にあります。虫歯や歯周病は感染症であり、その原因は食生活の乱れや歯磨きの不足によるものです。また、歯科治療そのものが新たな感染を引き起こすリスクもあるため、これまで以上に食生活や生活習慣の改善が必要となります。治療の質を向上させるだけではなく、その結果を維持するための努力が求められます。歯科治療は時間がかかるものであり、精密で繊細な治療を行うためには治療期間中のリスク管理も重要です。特に免疫に関わる治療では、患者の理解と日常の努力が必要です。そのためには、歯科医師と患者の相互理解と強い信頼関係が不可欠であり、それを築くためには、治療を始める前に歯科医師と患者が綿密に打ち合わせを行うことが必要です。