はじめに
皆さんは「虫歯」と「歯周病」を別々の病気だと思っていませんか?
確かに、原因菌や症状は異なります。しかし最新の研究では、この二つの病気が深く関係していることが分かってきました。
先日、Clinical Oral Investigations という国際的な歯科専門誌に、世界中の18本の研究をまとめたシステマティックレビュー(総合的解析)が発表されました。そこには「虫歯と歯周病はお互いにリスクを高め合う」という驚くべき結果が示されていました。
今回は、その最新知見をわかりやすく解説しながら、私たちがどのように口の健康を守っていくべきかをお話しします。
虫歯と歯周病 ― 世界で最も多い2つの病気
- 虫歯(う蝕):細菌が糖を分解して酸を作り、歯を溶かす病気。
- 歯周病:細菌が歯ぐきや骨に炎症を起こし、支えを失っていく病気。
どちらも細菌による感染症であり、世界で最も多い病気のトップに挙げられます。WHOの統計では、成人の90%以上が一度は虫歯になり、30%以上が歯周病の重症化を経験するといわれています。
一見すると別々の病気に見えますが、最新の研究では「一方があるともう一方のリスクが高まる」ことが示されました。
最新研究が明らかにしたこと
Liら(2024)のシステマティックレビューの結論をまとめると、以下の通りです。
- 歯周病があると虫歯になりやすい
- 歯周病患者は、健康な人に比べて虫歯のリスクが1.57倍高い。
- 特に根面う蝕(歯ぐきが下がった部分にできる虫歯)のリスクは2.1倍に。
- 虫歯があると歯周病になりやすい
- 虫歯がある人は、歯周病のリスクが1.79倍高い。
- 重症度に比例してリスクが上がる
- 中等度の歯周病で虫歯リスクが1.38倍、重度になると2.14倍に跳ね上がる。
- 臨床データの裏付け
- 歯周病患者は「虫歯の数(DMFT指数)」や「根面う蝕の数(DFR指数)」が有意に多かった。
つまり、「歯周病の人は虫歯になりやすい」「虫歯の人は歯周病になりやすい」という双方向の関係があるのです。
なぜ関係するのか?
では、なぜ虫歯と歯周病はお互いに関係するのでしょうか?
研究では、次のような理由が挙げられています。
- プラークの停滞
虫歯の穴や歯周ポケットは、どちらも「プラークがたまりやすい環境」を作ります。 - 歯ぐきの退縮
歯周病で歯ぐきが下がると、根が露出し、虫歯になりやすくなる。 - 痛みによる清掃不足
虫歯の痛みや知覚過敏で「その部分を磨かなくなる」ことが、歯周病の進行を助長する。 - 共通の生活習慣
喫煙・食習慣・口腔清掃習慣などが両方の病気に関係する。
要するに、「同じ口の中」にあるため、悪循環が生まれやすいのです。
臨床現場でよくあるシナリオ
私の臨床経験でも、以下のようなケースをよく目にします。
- 歯周病で歯ぐきが下がり、露出した根に虫歯ができる。
- 虫歯治療で詰め物をしたが清掃が難しくなり、周囲に歯周病が進行。
- 虫歯で噛めなくなった反対側に負担が集中し、その部位の歯周病が悪化。
つまり、片方だけ治療しても根本的な解決にはならないのです。
治療の考え方 ― 「全体を見る」
虫歯と歯周病の関係が明らかになった今、治療は「全体を見て計画する」ことが大切です。
- まず歯周病の治療:歯を支える土台が不安定なまま虫歯を治しても、長持ちしません。
- 根面う蝕の予防:歯周病治療後に露出した根を守るために、フッ素や生活習慣指導が必要。
- 定期メンテナンス:虫歯・歯周病の両方をチェックすることで、悪循環を断ち切る。
この考え方は、私がこれまで学んできた歯周病専門医としての基盤であり、医院の大きな特徴にしていきたい部分です。
患者さんへのメッセージ
「虫歯と歯周病は別々の病気」と考えると、治療や予防が片手落ちになってしまいます。
最新の科学は、両者がつながった病気であることを示しました。
だからこそ、私たちは「虫歯だけ」「歯周病だけ」ではなく、お口全体を見て治療・予防することが大切です。
私は歯周病専門医として、インプラントや再生療法も含めて「歯を長持ちさせる治療」を行っています。
将来の笑顔と健康を守るために、ぜひ定期的なチェックにいらしてください。
参考文献
- Li Y, Xiang Y, Ren H, Zhang C, Hu Z, Leng W, Xia L. Association between periodontitis and dental caries: a systematic review and meta-analysis. Clin Oral Investigations. 2024;28:306. doi:10.1007/s00784-024-05687-2