はじめに
歯周病は「沈黙の病気」と呼ばれるほど、気づかないうちに進行してしまいます。治療を受けて一度は良くなっても、油断すると再び悪化してしまうことも少なくありません。そのため、治療後の「メンテナンス(サポーティブペリオドンタルセラピー=SPT)」が極めて重要です。
しかし、患者さんからよくいただく質問があります。
「メンテナンスって、どのくらいの間隔で通えばいいんですか?」
今回は、国際的に有名な歯周病学の専門誌 Periodontology 2000 に掲載された Trombelli らの2020年レビュー論文をもとに、エビデンスに基づいた「最適なメンテナンス間隔」について解説します。
1. メンテナンスの目的とは?
メンテナンスの正式な定義は「選択的な間隔で行う処置で、患者が口腔の健康を維持できるよう支援するもの」です。具体的には:
- 全身・口腔の状態の確認
- 歯周組織やインプラント周囲のチェック
- プラーク・歯石の除去
- ブラッシング指導や生活習慣のアドバイス
- 必要に応じた抗菌処置
などが含まれます。つまり「病気を治す」ではなく、再発を防ぐための二次予防がメインの目的です。
2. どれくらいの間隔で通うのがいいのか?
論文のまとめによると、以下のように分けられます。
- 健康な人・軽度歯周病の人
6か月〜12か月に1回の来院でも短期的には安定が保てる。 - 中等度〜重度の歯周病を治療した人
2〜4か月ごとの定期的なメンテナンスで、長期的に歯を残せるエビデンスがある。
つまり「全員が3か月」という決め打ちではなく、病状やリスクに応じて間隔を変えるべきだと示されています。
3. 実際の研究データからわかること
レビューでは複数の臨床研究が分析されています。
- 12〜14年間の追跡調査で、2〜4か月ごとのメンテナンスを守った人は年間の歯の喪失が0.1本未満だったtrombelli2020。
- 一方、間隔が不定期になったり、自己判断で通院をやめた人は、歯の喪失リスクが有意に高かった。
特に残存している深い歯周ポケット(6mm以上)がある人は要注意。このような部位を抱えたままメンテナンスを怠ると、歯を失う確率が大きく上がることが示されています。
4. 出血するポケットがある人は要注意
「ポケットからの出血(BoP:Bleeding on Probing)」は、再発のリスクを測る重要な指標です。
研究では、治療後に出血を伴う深いポケットが残っている患者は、その後の歯の喪失率が明らかに高いことが示されました。
逆に、出血するポケットがほとんど残っていない人は、同じメンテナンス間隔でも歯を守れる可能性が高まりますtrombelli2020。
つまり、「何か症状があるから行く」のではなく、「症状がなくても定期的に行く」ことが大切なのです。
5. 経済的な観点からもメンテナンスは有利
「そんなに頻繁に通うと費用がかさむのでは?」と心配される方もいます。
しかし論文によれば、
- 定期的なSPTは確かにコストはかかるが、インプラントやブリッジなどの再治療に比べると圧倒的に安い
- 30年間のシミュレーションで、3か月ごとの専門医によるSPTは、歯の保存効果が高い一方でコストも増える。ただし、「歯を残す」ことを考えれば費用対効果は十分に優れている
という結果が出ています。
6. 患者さんの「通う力」が成功のカギ
いくら最適な間隔を決めても、通えなければ意味がありません。
過去の調査では、メンテナンスプログラムにしっかり通い続けた人は全体の約50%程度でした。
つまり「続けることができるかどうか」が大きな壁になります。
そこで重要なのは、患者さんごとの生活スタイルやリスクに合わせて柔軟に間隔を調整すること。
3か月ごとが理想でも、経済的・時間的に難しい場合は、まず6か月ごとから始めて徐々に短縮するなど、無理なく続けられる仕組みが必要です。
7. リスク評価を使ったオーダーメイド管理
近年では、PerioRisk と呼ばれるリスク評価ツールが開発されています。
これは以下の5項目をスコア化し、総合的にリスクを判定する方法です。
- 喫煙の有無
- 糖尿病の有無
- 5mm以上の歯周ポケットの数
- 出血の割合
- 年齢に対する骨吸収量
このスコアによって、
- リスクが低ければ年1回でも可
- リスクが高ければ3か月ごとの管理が必須
といったように、患者一人ひとりに合わせた間隔の設定が可能になります。
8. まとめ ―「一律」ではなく「あなたに合わせた間隔」が答え
Trombelli らのレビューを踏まえると、次のことが言えます。
- 健康な人や軽度歯周病の人は、6〜12か月ごとでも安定を維持できる。
- 中等度〜重度歯周病を治療した人は、2〜4か月ごとのメンテナンスが最適。
- 出血を伴うポケットが残っている場合は、短い間隔での通院が必要。
- 経済的にも、歯を残すことを考えればメンテナンスは費用対効果に優れる。
- 重要なのは「通い続けること」と「リスクに応じたオーダーメイド管理」。
患者さんへのメッセージ
「痛みがないから大丈夫」と思っている方こそ注意が必要です。
歯周病は静かに進行し、気づいたときには歯を失ってしまうこともあります。
ぜひ、ご自身のリスクに合った最適な間隔でのメンテナンスを一緒に考えましょう。
それが、10年後・20年後も自分の歯で食事を楽しむための一番の近道です。